写真①:旧・島田屋住宅の前にある三富の落ち葉農業の説明パネル
1.落葉による自然循環型農業
埼玉県の所沢市と三芳町にまたがる地区に、三富(サントメ)と呼ばれる有名な地区がある。下富、中富は所沢市、上富は三芳町に属する。なぜ有名かは農業関係者の一部はよく知っている。落葉や雑草を利用し堆肥を多投し、広い区画の荒地を肥沃な農地に換え、自然循環型有機農法を成功させた江戸時代の開拓地だ。その成果は、チリにも技術移転されたほどで、海外にも知られている。
写真⓶③ 後を支える
武蔵野の雑木林
写真④:雑木林の際から住宅のあるケヤキ並木を見る…かすんで見える
今回問題にしたいのは、上富の属する三芳町は人口3.7万人で、入間市の14.5万人、所沢市の33.8万人に比してすこぶる小さいにもかかわらず、史跡保存に多大な努力をし、同時に地元産品のサツマイモなどのPRにも力を入れ、農業振興にも成功しているからだ。
この地区は、もともと関東ローム層のやせた荒地であった。周囲の農民の入会地で、屋根をふく萱を刈ったり、堆肥のため落ち葉をかいたり、雑草を刈ったり、薪炭用の雑木を得たりしていたが、資源の取り合いで紛争が絶えなかった。元禄年(1694年)に川越藩主となった柳沢吉保は、元禄9年5月にこの荒地の検地をし、そして縦横の太い道路をつけ、超長くて広い区画の地割をした。上富(三芳町)、中富、下富(共に所沢市)の3村を誕生させた。
2.区画の長辺675m-1区画5ha
長辺は675m、短辺は72mで、立地により長・短辺を調整したが、全体面積は約5ha(実際は4.86ha)と一定。675mと言えば、普通に歩いて8.4分かかる。長辺の片側にはケヤキなどを配した屋敷、片側には落葉や薪炭用のコナラなどの雑木林。写真⓶は、はずれの雑木林の下に立って、住宅のあるケヤキの木立を撮影したものだが、かすんではっきりとは見えない。
図①:上富地区91戸の地割図
かりに屋敷用地に0.5ha、雑木林に1haを当てたにしても、なお3.5haが農地になる。戦後、まだ農地の集中が進まない昭和35年の1農家平均の耕地は0.77haである。やせ地とはいえ3.5haはこの4.5倍。落葉農業で土地の肥沃化を進め、後の発展につながった。関東ローム層の緩やかな台地のため、河川がなく導水も考えたがうまく行かず、三富全体で22mの深さの井戸を11ケ所に掘り共同利用もした。
地割が終わると上富91,中富40、下富49,計180世帯が近隣から入植した。やせ地のためサツマイモの栽培が主力で、他はソバなど限られたものだったようだが、落葉堆肥を繰り返すことで年々肥沃になり、今現在はサツマイモ、ホウレンソウ、コマツナ、ダイコン、カブ、スイカ、メロン、ユズ・・・と豊富な作物が採れ、耕地規模の広さもあって、豊かな農村地帯となった。屋敷の広さや建物の立派さを見ても、このことは一目瞭然である。
写真⑥:56号線沿いに「いも街道」の表示板
ある農家を訪ねたことがある。4人ほどでサツマイモの選別をしていたが「12品種ほど栽培している」とのこと。多様化したニーズに沿い、多品種栽培が進んでいるのにびっくりした。かなり前にこの地にきたとき、南北に県道56号線が走るが、北は『多福寺前」、南は「下組」の交差点の間の約1kmほどの間に、秋~冬にかけ「冨のいも」「川越いも」と書かれたノボリが多数立つ。私が「イモ街道という名をつけたらいいですね」と言ったら、「すでにいも街道と名付けられていますよ」と言われ、恥をかいたものだ。たしかに良く見ると56号線沿いに、黒い板に白い字で「いも街道」と書かれた表示板が数か所に付けられていた。サツマイモ農家を振興するための町のテコ入れの一つだと思う。
3.古民家保存で落葉農業教育の拠点
さて、市の史跡保存の努力は並々ならぬものがある。1kmのゾーンの北はずれには、写真⓶③のとおり開発名主「島田家」の門と両袖の壁が保存され、合わせて1尺近い幅の石の壁、重厚な瓦屋根の建物も見ることができる。印象的なのは、門の前に建てられた島田家を記す碑の側面に「郷土の文化財を大切にしましょう 三芳町教育委員会 三芳町文化財保護審議委員会」と彫られていたことだ。
300mほど南下すると、この島田家が「寺子屋」にも使っていた茅葺の古民家(写真④⑤)が移築されている。平成8年3月に復元工事は完了したようだ。庭の外側には5台分の駐車場や、男女別のトイレもあり、開館時間は9~16時。休館日は月曜及び祭日、12月28日~1月5日まで。入場料は無料。
写真⑦:旧・島田家を移築し、落葉農業学習の拠点に
写真⑨:液体、個体、紙など様々な物入
写真⑩ 春先には庭にサツマイモの苗床も
写真⑪ 裏手には囲炉裏に使う薪がどっさり積まれている
古民家は間口20.9m×奥行8.2m=面積171.0㎡(約51.8坪)。市に雇用された高齢の女性3人が交代で管理に当たり、毎日囲炉裏で火が焚かれ、掃除をしたり、見学者にいろいろと説明もしている。前に来たときは庭にサツマイモの苗床があった。また軒下に縦に裂いたダイコンを干していたこともある。永年の煙のせいか、床、柱、壁すべてが黒光り、やはり黒光りした棚には昔油や醤油等を入れた壺や収穫物他を運ぶ竹籠などが並ぶ。ほうき草で作った箒などの展示物もある。巻頭の写真もこの古民家の前に立っており、子供さんを初めとした人への「落葉農法」の学習拠点となっているように思う。実際に度々いろいろな研究集会がここで行われている。
ここからやや南下した道路の反対側に、「埼玉県指定旧跡 三富開拓地割遺跡」という碑もある。同じものは旧・島田家の庭にもあり、特定のポイントに建てられているのでなく、「この地域全体が三富開拓ですよ」と言った意味合いのようだ。
三芳町のすごさは、「旧・池上家の住宅」という別の古民家も保存していることだ。こちらは三芳町竹間沢877にある三芳町立歴史民俗資料館の敷地にあ る。いも街道の南はずれには、イモ農家が始めたIZAEMONという立派なピザレストランがあるが、他にも複数の食事どころがある。これらで一息ついて、最後は上記の民俗資料館を訪ねるのが最高の三芳町の旅と言える。ナビで行くなら三芳町上富1542の多福寺を目指すとよい。この寺は開拓民の拠り所として建てた菩提樹。ここから東に500mほどのところが、56号線の『多福寺前』である。
写真⑫⑬ 多福寺の紅葉
なお、「三芳町川越いも振興会」のHPを検索すると、いも街道沿いの29軒に及ぶいも販売農家の電話番号も出ている。
令和3年11月14日(日曜日)に
三富地域の平地林散策と「さといも」収穫体験」を開催します。
詳しくはさんとめねっとのホームページからご覧ください。
令和3年11月20日(土)~21日(日)小江戸蔵里にて
第15回さんとめの木をいかす展を開催します。
※小江戸蔵里HP https://www.machikawa.co.jp/
三富で育った木を使ったワークショップを多数ご用意しています。
三富材を使ったクラフト品の展示販売も行っています。
詳しくはさんとめねっとのホームページからご覧ください。
令和4年2月2日(水)13:30~15:30
「三富地域の平地林をナラ枯れから守るために」と題した
講演会を予定しております。
※例年開催される「農」と里山シンポジウムに該当するものです。
講演会はコロナ対策としてZOOMにて開催します。
※講演後、内容をYouTubeで視聴する方法もあります。
詳しくはさんとめねっとのホームページからご覧ください。
※郵送希望の方でも、メールアドレスがある方にはイベント情報
をメールで送らせていただきました。
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川越農林振興センター
三富農業・地域支援(三富農業)担当
担当部長 藤澤 史宜
tel 049-242-1808 fax049-243-7233
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