1.狭山茶を含む埼玉茶のシェアー1.1%
41の宣言のなかには、「狭山茶の産業振興・アンテナショップの開設」「狭山茶主産地のまちづくり条例」という茶にまつわるものがある。入間市と茶は密接不可分だが、再度全国における狭山茶(と言っても埼玉県分の)の位置を知る必要がある。2020年における埼玉県の荒茶生産額のシェアーは1.1%で全国10位である。1位静岡36.1%、2位鹿児島34.2%、3位三重7.3%、4位宮崎4.4%、5位京都3.4%、6位福岡2.3%、7位奈良2.1%、8位佐賀1.6%、9位熊本1.6%となる。茶葉ではすでに2020年に鹿児島が1位、静岡は2位と入れ替わっているが、ともかく荒茶で言えば静岡の1/31のシェアーに過ぎない。埼玉県の人口の全国シェアーは5.5%であり、荒茶のシェアーが1.1%ということは、茶が人口に比例して飲まれるとすると、1.1÷5.5=19.0%・・・
つまり埼玉で飲まれる茶の2割弱しか県内で自給されていないことになる。狭山茶の特徴は、生産(1次)、加工(2次)、販売(3次)を各茶業生産者が1貫してやってきたこと。これを1×2×3=6次産業化と呼び、2011年(平成23年)から農水省は「自ら加工・販売まで手掛ければ、農家の付加価値、所得は高まる」と6次産業化を推奨。狭山茶の場合、各戸が住宅付帯の店舗を作り、商品の見本を展示しながら対面で売る「座売り」方式だ。この座売りの低迷もあり、ほとんどの生産者が各自ホームページを立ち上げ通販もしているのが現状だろう。
2.スーパーの扱いは極めて少ない
固定客に直接売るのだから、当然高い付加価値が得られる。半面、大衆商品を扱うスーパーへの供給努力が弱くなり、結果的に狭山茶のシェアーが伸びないことになる。仏子・金子地区のスーパーに例を見ると(麦茶含む。ボトル入り別、紅茶は除く)・・・
Aスーパー:小規模。ゴンドラ幅約180cm。茶アイテム60、うち狭山茶2アイテム。100g730円、780円。
Bスーパー:中規模。ゴンドラ幅約270cm。アイテム72、うち狭山茶17アイテム(非常に多い部類)。
Cスーパー:ディスカウント型大規模。ゴンドラ幅180cm。アイテム60、狭山茶2アイテム。100g495円、798円。 お茶軽視の感あり。
Ⅾスーパー:中規模。ゴンドラ幅270cm。アイテム106、うち狭山茶6アイテム。
Eスーパー:大規模。ゴンドラ幅270cm。アイテム75,うち狭山茶2アイテム。100g478円、554円。
Fスーパー:中規模。コンドラ幅300cm。アイテム92、うち狭山茶3アイテム。 他に茶専門店入店。
写真①中段の4品が狭山茶以上のように、スーパーにおける茶の扱いはゴンドラ2~3本が普通だが、これがほとんど伊藤園を中心にした大手や中小メーカーの品に占領され、狭山茶は2~17アイテムと少ない。6店の総合計では465アイテム中の狭山茶は32アイテムで、占有率は6.9%にすぎない。筆者がミニ・スーパーの開店指導に当たっていた50年前には、まだ丸山園や富士製茶といったところも元気で、90cmの木製の独自の陳列台を貸出し、伊藤園抜きの売り場も小型店ではあったのだ。時代は大きく変わったものだ。これら茶葉のスペースに匹敵するほど大・中・小のペットボトルのコーナーも別にあり、これまた伊藤園が幅をきかしている。
3.若い人を配慮の新業態開発も必要
個々の茶業者が座売りやネット直売に励んできたため、「スーパーへの卸し」という面が、空洞化してしまった。ために狭山茶の県内シェアーが20%と低い(スーパーでは6.9%)。狭山茶業振興協力会というものがあり、これが狭山茶のマーケティング機能を担当し、商品開発の例もあるようだが、狭山茶のシェアーを高めるには・・・
一つは品評会似たっ多数出品し、勝って賞を得ることだ。毎年、農林水産省主催の茶の品評会が開かれ、トップの大臣賞のほかに農林水産局長賞、茶業中央会会長賞、連合会会長賞などでは多数の分野の賞が渡させるが、この産地別の2020年の受賞数を見ると、静岡13,京都12,福岡7,佐賀7,鹿児島6,宮崎3,長崎1・・・となっている。埼玉はゼロである。また「狭山茶は深蒸し茶で味が濃いい」「3大銘茶の一つ」とされるが、区分の深蒸し煎茶部門で、静岡県が6つの賞を独占しているのだ。お株をすっかり奪われた姿にあることを反省する必要がある。ためにスーパーに行けば静岡茶、鹿児島の知覧茶がすこぶる目立つ。
次には業界団体が完全に1本化し、茶販売機構を持ち、スーパー等へ卸せる仕組みを作ることだ。少ないアイテムでは、受発注の手間がかかり、相手にされない。伊藤園の隆盛はアイテムの豊富さ→受発注の便利さにあると言える。
①
JAいるま野農協がスーパーと提携し野菜中心の直売コーナーを設置し、6~10人前後に出荷を担当させている。機構は農協と連携しスーパーとの仲を取り持ってもらう。そして直売コーナーの木製多段台の最上部に地元茶業者の品を5~10品扱ってもらう。販促のためのPOPも準備する。賞味期限も考え、古いものは引き取る。売れた分だけを締め日に合わせ受け取る。販売手数料は普通15~20%で、陳列は生産者側がする。
②
機構は、合わせて茶のボトル飲料も開発し、市や公共団体、小中学校などの消費は原則「狭山産」ボトルにしてもらう。瓶詰めを引き受ける6次産業事例も秩父や栃木等にある。
③
機構は若者の消費を促すには、抹茶を使った関連商品を伸ばす店を育てる。このための助成、融資などの拡充を県や国に働きかけ、店舗の再構築を助ける。若者が好むものは、抹茶を使ったソフトクリーム、アイス、搔き氷、皮に抹茶を使った今川焼、鯛焼き、抹茶をねりこんだ生ケーキ。ロールケーキ、プリン、ゼリー、大福餅等。これらはお茶より数倍も商品回転率が高く、茶業店を活性化させる。「抹茶ソフトクリーム」「抹茶今川焼」とか夏場は「抹茶搔き氷」ののぼりを立て売り込めばニュー業種の誕生となり、労力も完全燃焼する。
4.個性としてのこだわりの強調
緑茶そのもの1世帯の年消費支出金額は、緑茶飲料の年約4,000円を除くと約6,000円である。2017年の間に29%減少している。この原因は、本来お茶はし好品であり、多様な好みを競う場である。にもかかわらず、個別茶園が「価格が高ければ品質は良く、低ければ質が悪い」といった感じの宣伝をし、包装袋にしても自園の「こだわり」が丁寧に印刷されているのは稀で、若い世代の「差別的選択性」への配慮がない。
たとえば、茶の味は渋み、苦み、旨み、甘みに分けて表現され、TPOに応じ選択が変わってくるはず。したがって「受験勉強や読書のともに苦いお茶」「子供さんに好かれる甘いお茶」「お茶漬けを引き立てる旨い茶」という訴えがあっても良いはず。実際の包装を見ると、消費者に差別性が伝わらない・・・国産茶(輸入品が使われている現状を暴いたことになる:逆効果)、一番茶のみ、自園茶、自製造茶、深蒸し茶、火入れ茶と言った製法上の専門的な表現が実に多い。
茶園が乱立し、規模が小さく、個性あるものを開発し、宣伝費を掛けある程度のシェアーを得る・・・という仕組みに失敗しているように見える。高齢化の先にあるのは茶園の統合―個性商品の開発-市場の拡大ではないか。例えば「有機栽培」というのもこだわりの一つである。これから求められるのは平均的な茶ではない。ターゲットを明確にした個性商品のはず。
と同時に狭山茶全体のシェアー・アップに必要なのは、新聞、テレビ、ネット等にどれだけ話題を提供できるかである。「山椒は小粒でもピリリと辛い」と言った特徴が必要だ。「入間の比留間園の微発酵茶は3gで50,000円。日本一の高いお茶」というのもその一つで、「へー、日本一高値の茶があるなら、ほかの狭山茶の質も高いはず」と比較的に狭山茶の安値のものも買われる可能性が増す。話題の一の矢、二の矢、三の矢が繰り出されるようにする・・・例えば、
①
小・中・高校の3段階で、茶農家訪問、茶摘み、製茶工場訪問、手より作業、茶の上な入れ方、茶の湯作法、茶の総合知識の座学・・・これらを20時間ほどかけてやり、
後に習熟テストをして卒業書を渡す。成績の悪い人は、後日再テスト。こんなことが新聞、テレビで発信することも大いに狭山茶のPRにつながる。
②キャンプがはやりである。河川敷では規制が強まっており、茶業農家の広い敷地をキャ ンプに開放。茶の作法を学んだり、抹茶入のケーキ類ほかを創ったり、抹茶かき氷をたべたり、茶畑や加治丘陵へのハイキングも実施・・・こんなことも新聞・テレビ種になりうる。
5.アンテナショップは大赤字に
市では「狭山茶の産業振興のためアンテナショップを開設するとともに、狭山茶の海外輸出を支援し。販路を積極的に拡大します」としている。いま東京都内にアンテナショップは55店あり、うち42店が都道府県、13店が市町村のもの。1,800市町村の数から見れば、市町村のアンテナショップは1%未満の稀有な例で、稀有な例の仲間入りを考える発想が異常すぎる。
なにせ入間市はお茶くらいしか特産品が見当たらない。この特産品は県内でも20%未満のシェアーか取れていない。だから本来なら県内シェアーをいかにして高めるかが重要課題。ましてお茶は年購買頻度8回ほどと低い商品。これを核にして店舗を設けたら、日本一客足の少ないアンテナショップになること間違いない。魚、肉、果物、酪農製品など生鮮品や日配品(牛乳、卵、豆腐、納豆など)の特産物が沢山あれば、来店頻度も高まるが、お茶は対極にある。ほかの特産品で名の出てくるのはサトイモ、ウド、シイタケ、繊維、織物である。サトイモやウドは頻度が高いと言え、わざわざ都心に出てきて買う品ではない。観光資源となると、これまた茶園、加治丘陵、三井アウトレトモール、ジョンソンタウンくらいで、観光の宣伝効率が上がらない。
北海道は、県の「どさんこプラザ」が有楽町、池袋、吉祥寺にあり、「北海道フーヂスト」が八重洲や新宿に、「北海道うまいもの館」(市の物産館)が町田、立川、八王子、台場にある。観光で行ってみたいところが山ほどあり、そこで味わえる食品も海産物、酪農製品と豊富・・・旅行の夢を店舗が実現しているからいずれも繁盛している。残念ながらこ入間市にはこれらの条件がない。ましてや、茶の輸出までプロモーションするとなると、外国語に長けた人材も必要で、地代・家賃だけでなく人件費も膨らむ。「輸出などは商社にお願いしてすべきもの」と指摘する声が強い。だが先に述べた通り、県内、県外のシェアーを高める努力が先決である。
そのためにはアンテナショップを選ぶのでなく、楽天やAmazonの成功に見習いネット及び通販の活用を進めるべきである。市でも宣言のなかで「ゲートウエー構想の推進」(通信手段の異なる2者の間を中継し1本化する機器とかソフト)を掲げているが、茶業者がすでに行っているホームページ、ブログ、フェイスブックなどでの情報を一元化し、かつ狭山茶の価値を高める情報を収集し、常時アップしていく・・・こうした宣伝法であれば、地代・家賃は不要で、ITやネットに強い職員1人、茶業界を取材して記事にする職員の2人もいれば相当なことができる。費用はアンテナショップの10分の1もかからないはず。